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BCP(事業継続計画)を策定する際は、自社にとって重要な事業を継続するために、業務やシステムを復旧するまでの目標時間をあらかじめ定めておくことが必要です。
ここでは目標復旧時間(RTO/Recovery Time Objective)の決め方や重要性など、基本情報を事例とともにわかりやすくまとめました。目標復旧時間(RTO)とあわせて覚えておきた目標復旧レベル(RLO)やサービス品質保証(SLA)などの用語も一緒に解説します。
目標復旧時間(RTO)とは
目標復旧時間(RTO/Recovery Time Objective)とは、自然災害やシステム障害など企業に影響を与えるインシデントが発生した際に、業務やシステムを復旧させる目標時間の目安です。たとえば「事業が停止した場合、8日後には取引先からの注文が80%を切る」など、顧客や取引先、自社の重要な事業などに及ぶ影響をどの程度まで許容できるかを考え、目標復旧時間(RTO)を設定します。
目標復旧時間(RTO)をもとに事業継続に必要な対策を練っていくため、BCP(事業継続計画)においても非常に重要な指標です。
目標復旧時間(RTO)の重要性と設定する目的
自然災害やシステム障害など緊急事態により事業が停止し、復旧が遅れた場合、顧客が他社に流れてしまうなど事業機会の損失が発生するおそれがあります。最悪の場合、顧客や取引先からの信頼を失い、倒産してしまう可能性もゼロではありません。
上記のような事業停止による被害を最小限に抑えるためにも、中核事業における目標復旧時間(RTO)をあらかじめ設定することが重要です。目標復旧時間(RTO)をもとに対策や手順、リソースの確保を行うことで、緊急時に最短時間で事業復旧を目指せます。
目標復旧時間(RTO)と目標復旧レベル(RLO)の違い
目標復旧時間(RTO)とともに覚えておくべき用語として目標復旧レベル(RLO)があります。目標復旧レベル(RLO)はインシデント発生後に目指す復旧レベルを表す指標で、必ず目標復旧時間(RTO)とセットで考えます。
この2つを組み合わせることで、事業継続の精度がさらに高まるため、必ず理解しておきましょう。それぞれの意味やの違いを以下の表にまとめました。
| 用語 | RTO | RLO |
|---|---|---|
| 正式名称(英語) | Recovery Time Objective | Recovery Level Objective |
| 日本語名称 | 目標復旧時間 | 目標復旧レベル |
| 定義 | インシデント発生後に業務やシステムを回復させる目安時間の指標。 | インシデント発生後に業務の操業水準をどのレベルまで回復させるかの指標。 |
| 例 |
地震に見舞われた場合のA事業の目標復旧時間(RTO)を72時間(3日間)に設定。 上記をもとにA事業の業務ごとの目標復旧時間(RTO)を以下に定めた。 |
地震に見舞われた場合のB事業の目標復旧レベル(RLO)を、目標復旧時間(RTO)とともに以下に定めた。 ・復旧第一段階 ・復旧第二段階(3日) |
BCPにおける目標復旧時間(RTO)の目安と事例
初めて目標復旧時間(RTO)を定める際は、どの程度の時間を想定すればよいか検討がつきづらいかもしれません。中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針のホームページでは、大規模地震が発生した際の目標復旧時間(RTO)の事例が紹介されているため非常に参考になります。たとえば、新潟県中越地震では、製造業は3日間、小売業は10日間で事業が復旧できた事例がまとめられています。
内閣府の資料「企業の事業継続計画(BCP)策定事例」から建設業の事例も紹介します。この事例では各業務の目標復旧時間(RTO)ごとに細かく目標復旧レベル(RLO)や対応を定めており、災害発生後から2週間までに工事再開、1~3カ月で通常業務への完全復帰といった計画を立てています。
参考:企業の事業継続計画(BCP)策定事例 業種:建設業(総合工事業)|内閣府 防災担当
ただし、上記はあくまで一例です。企業や事業内容によって状況は変わるため、必ず自社の状況を分析して目標復旧時間(RTO)を定めましょう。
目標復旧時間(RTO)の決め方・設定手順

目標復旧時間(RTO)は次の4ステップで定めるのが一般的です。
- 優先的に復旧させるべき事業を決める
- 事業継続におけるボトルネックを把握する
- どの程度中断すると影響が大きいか分析する
- 目標復旧時間(RTO)を決める
以下で詳しく解説します。
1. 優先的に復旧させる事業を決める
緊急事態が発生した際に、限られた資源で被害を最小限に抑えるためにも、優先的に復旧させる中核事業を定める必要があります。事業が停止した場合にどれほどの影響が出るかを事業ごとに分析して、重要性の高い事業を見極めましょう。
中核事業を選ぶ際には、金銭面での損失や顧客と取引先に与える影響などを数値化するビジネスインパクト分析(BIA)が効果的です。まずは自社の事業ごとの収益高や売上高、利益率、その事業の将来性などを整理し、比較していきましょう。取引先ごとの影響度も調べることで、より自社の現状を詳しく分析でき、優先すべき事業が見えてきます。
2. 事業継続におけるボトルネックを把握する
選んだ中核事業を継続するにあたって、緊急時にボトルネックとなり得る経営資源(人員・資産・資金・情報)を把握します。たとえば「設備が故障した場合、特殊な設備なので調達に時間がかかる」「システムが停止して受注データを損失した場合、製品の出荷できなくなる」など、弱みとなる要素に関しては事前の対策が必要です。
ボトルネックとなる経営資源を分析するには、まず中核事業の業務プロセスを明確にします。たとえば「受注→生産管理→製造→検査→出荷」などのプロセスに対し、業務ごとに必要な経営資源を書き出してみてください。この中から、特に事業継続にあたって必要不可欠な要素や代替の効かない資源、調達に時間と資金がかかるものを洗い出すと、ボトルネックが把握できます。
3. どの程度中断すると影響が大きいか分析する
目標復旧時間(RTO)を定めるには、「どの程度の期間、中核事業が中断すると自社の利益がなくなるか」の分析が必要です。たとえば以下のように損失が100%に達するまでの時間をグラフにすると、影響度を可視化できます。
【定量的(金銭的)分析の例】

同時に、どの程度の期間、事業が停止すると顧客離れが起きてしまうかといった数字で測れない部分の分析が必要です。得意先などへ「どの程度まで納期を待ってもらえるか」を事前にヒアリングしておくと、関わる取引先やサプライチェーンが許容できる事業停止時間を把握しやすくなります。
また、自社の財務状況からの分析も欠かせません。事業が停止した場合、売り上げが途絶えてしまううえ、従業員への給料の支払いができるかといった問題が浮上してきます。機械や設備などが被災した際にはまとまった資金も必要でしょう。自社の財務状況が、これらの事態に耐えうる状態なのか事前に把握しておくことをおすすめします。
4. 目標復旧時間(RTO)を決める
これまでの分析結果をもとに、目標復旧時間(RTO)を決めます。事業中断により生じる損失がどの程度まで許容可能かを経営者が判断して、目標復旧時間(RTO)を定めるのがベストです。
中核事業の目標復旧時間(RTO)を決めたら、時間内に復旧できるよう対策を練っていきます。そのためには、各業務における目標復旧時間(RTO)を細かく定めることが重要です。全体の目標復旧時間(RTO)から逆算し、各業務の復旧にかける時間を設定していきましょう。
目標復旧時間(RTO)とあわせて覚えておきたい用語
最後に、目標復旧時間(RTO)を定めるうえで知っておきたい2つの用語について解説します。
サービス品質保証(SLA)
サービス品質保証(SLA/Service Level Agreement)はIT分野で使われる用語で、主に事業者と利用者の間で取り決めるサービス品質の指標を指します。クラウドサービスなどを提供するIT企業においては、サービス品質保証(SLA)を考慮して目標復旧時間(RTO)を定める必要があります。
サービス品質保証(SLA)で定めたサービスの品質を下回る場合は、料金の減額や利用者に対する補償が行われるのが一般的です。
最大許容停止時間(MTPD)
最大許容停止時間(MTPD/Maximum Tolerable Period of Disruption)とは、中核事業が停止した場合に、経営陣が最大限許容できる中断時間を指します。
目標復旧時間(RTO)は、最大許容停止時間(MTPD)を決めてから設定するのが基本です。大規模な災害が起きた場合は復旧に時間がかかることが予想されるため、最大許容停止時間(MTPD)から余裕をもたせた目標復旧時間(RTO)を設定するようにしましょう。
BCPを策定する際は必ず目標復旧時間(RTO)を定めよう
自社や顧客、取引先への影響を考慮して設定する目標復旧時間(RTO)は、BCP(事業継続計画)において非常に重要な意味を持ちます。目標復旧時間(RTO)をもとに、対策を考えることで、より効果的な事業継続の計画が立てられるでしょう。
BCP(事業継続計画)を策定する際は、目標復旧レベル(RLO)なども考慮しながら目標復旧時間(RTO)を定め、自社の事業継続力を高めていってください。












